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経口妊娠中絶薬ミフェプリストン解説


1.ミフェプリストンとは


ミフェプリストン(mifepristone)は卵黄ホルモンのプロゲステロン(progesterone)受容体をブロックするステロイドです
また平行して投与されるミソプロストル(misoprostol)、[ブランド名:サイトテック(Cytotec)]は免疫などに直接影響を与える、潰瘍防止タイプのプロスタグランディン(prostaglandin)(4.参照)です。したがって、妊娠中にこのタイプのプロスタグランディンを服用することは、微生物感染、子宮内膜疾患など種々の副作用が発症しやすくなります。サイトテックを生産するサール社(Searle)は2000年にサイトテックをミフェプリストンと併用しないよう書面で警告しています。

ミフェプリストン(mifepristone)C29H35NO2 分子量429.6
11s-[p-(Dimethylamino)phenyl]-17s-hydroxy-17-(1?propynyl)estra-4,9-dien-3-one
ミフェプレックス(Mifeprex)は1錠200mgの装丁となっており、標準服用量は3錠です。

2.使用法の難しいミフェプリストンと副作用


第一にミフェプリストンは2ヶ月程度(最終月経より49日間)の初期の妊娠しか、効果がありませんが(60日くらいまで有効との研究もあります)、妊娠時期の判定は困難な作業です。中絶効果の無い投与は、いたずらに女性のホルモンバランスを崩し弊害が出てきます。

第二に子宮外妊娠の有無を確認しなければなりませんが、ソノグラム(sonogram)などの音波探知装置が必要です。特に子宮外妊娠を知らぬまま投与すると、子宮破裂など危険な状態となるといわれます。胎児吸引など応急措置が可能な施設での投与が必要なわけです。

第三にミフェプリストンは副作用の経過を見ながら投与しないと危険です。副作用表示には、腹部痛(abdominal pain)、出血多量(bleeding)、胃腸障害(gastrointestinal)、敗血症(sepsis)、重度微生物感染症(serious bacterial infections)、子宮外妊娠時の危険性(ectopic pregnancies)、消化器潰瘍(peptic ulcers)などがあり。

3.ミフェプリストン投与の現状


ミフェプリストンは、服用二日後にプロスタグランディンのミソプロストル(misoprostol)を投与(メーカーは使用の危険性を警告している)すると、中絶の成功率が高く(約90数%)、これまでの15年間にフランスで60万人、欧州各国で30万人の使用者がいるそうです(Population Councilの発表数字)。人口問題の深刻な中国は統計が入手出来ませんが、生産会社がいくつかあり、すでに500万人以上に投与済みとも言われています。
米国ではミフェプリストン処方の70%以上が、NPOのポピュレーション・カウンシル(※1)が関与するプランド・ペアレンツフッド(※2)などの医師やクリニックだそうです。一般の医師の取り扱いが少ないことが特徴的です。そのために、米国でも違法な横流し品を、禁止されているネット経由で取得するケースが多いようです。

(※1)ポピュレーション・カウンシル「Population Council」。自然療法普及や人口増、貧困、意図外妊娠など中絶を必要とする世界の女性のためのNPO。ニューヨークをベースに各国に支所がある。
(※2)プランド・ペアレンツフッド(Planned Parenthood)(家族計画)人口問題に取り組む米国の医療NPO。

4.ミフェプリストンの開発と歴史


1980年にフランスで(RU-486)として開発されました。開発したのはフランス、ラッセル・ユクレフ社(Roussel Uclef)のボーリュウ博士(Dr. Etienne-Emile Baulieu)です。
当然のことながら、当初は中絶薬としてではなく子宮ガン、乳がん、クッシング症候群 (Cushing's syndrome)などがターゲットでした。結局、中絶薬として開発されましたが、発売には消極的だった様です(宗教的倫理問題?)。一説によれば、人口問題(外国?)を懸念する監督庁により発売を促されたとも言われています。
当時のラッセル社は少なくとも米国向けの製造を拒否しており、永らく米国で発売がされなかった原因の一つにもなりました。その後ラッセル社は発売に前向きなクリントン時代の1994年に、米国での製造発売の権利をNPO,NGOのポピュレーション・カウンシル(Population Council)に贈与しました。
ポピュレーション・カウンシルは1994-5年にかけて、医療NPOのプランド・ペアレンツフッドを通じて約48千人の大規模な臨床治験を実施します(Planned Parenthood発表数字)。同時期にFDAも859人の治験に入りました。この米国での発売にいたる、複雑な経緯は米仏の政治問題ともなり、ロビー活動が盛んだったようです。ミフェプリストンは、宗教関係者など中絶反対のグループと、増加する人口問題を懸念するグループとの世界規模の論議を呼びながらも、フランス(1988)、英国(1991)、スウェーデン(1992)、中国(1988)などで認可されています。

5. ミフェプレックス(MifeprexTM)


米国は1973年に妊娠中絶(堕胎、abortion)が合法化されてから、39百万人の中絶が行われ、200人の死者がでているといわれます(ウォールストリートジャーナル)。
ミフェプリストンは前ブッシュ大統領には認可を阻止されましたが、クリントン政権によって2000年9月28日に認可されました。
フランスで認可された1988年から12年後の2000年9月のことですが、ロビー活動が盛んに行われた政策として、議会を真っ二つに割る論争が起きた案件でした。
米国での製造発売の権利を贈与されたポピュレーション・カウンシル(Population Council)は、新たに設立されたダンコ・ラボラトリー社を米国の総代理店として製造販売委託します。2000年にダンコ・ラボラトリー社はミフェプリストンをミフェプレックスのブランドで発売開始しました。

6.プロスタグランディン


プロスタグランディンは1958年に羊の精嚢から分離され、研究が進展しました。1971年には1982年のノーベル賞を受賞した英国の薬理学者ジョン・ベイン(Vane,Sir John R).によって、痛みや炎症に関係する、内因性生理活性物質(生体調整ホルモン)の化合物群であることが判明しています。この発見により、アスピリンが痛みの原因物質であるプロスタグランディンの作用を阻害しているメカニズムが解明されました。

現在、プロスタグランディン(以下PG)にはその化学構造中にある5員環(あるいは6員環)の化学構造の違いからAからJ迄命名されていますが、最初に見つかったのはEとFです。(生理時には子宮と卵巣でE型PG、F型PGが大量に作られて、子宮を収縮して、それが痛みとなって現われます)PGE1やPGE2の様に番号が振られていますが、この番号はその化合物の二重結合の数を表しています。プロスタグランディンはいずれも脂肪酸から作り出されますが、タイプは、元となる脂肪酸(HP参照)によって決まっています。タイプにより悪玉、善玉双方に働くのが特徴です。
 ミソプロストル(misoprostol)の組成が推測される(未確認)、リノール油など不飽和脂肪酸n6系のアラキドン酸から合成されたタイプ2型のエイコサノイドは血圧や免疫機能の維持に大切な働きをしますが、過剰となった場合は、動脈硬化、高血圧、心不全、脂肪肝、アレルギー性湿疹、アトピー性皮膚炎といった症状がでてくることがあります。

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